映画

"American Penis Story"、または"Oppen-is-heimer"(クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』)

冒頭のエピグラフ、大抵こういうものって既存の文学作品からの引用が定番かと思うのですが、著者名の記載が無かったんですよね。それってつまり、ノーランが自分で書いた文章ってことなのか?と。 そして、この手の実録物にはほぼ欠かさずある、本編最後に黒…

常識では考えられないビートたけしの"ビークー"(北野武『首』)

ビークー、じゃなくて『首』、というタイトルで思いつくのはやっぱり、仕事を辞める時の「クビ」だ。漫才のオチとして「やめさせてもらうわ」というフレーズがあるが、もちろん東京の漫才ではあまり見られない。どっちかというと相手に「やめなさい」と言う…

《映画の冒頭シーンのところで入ってくる人々は「ほんの少しの見逃しですんだ」かもしれないが、すでに着席している側は「大切な大切なファーストシーンの場を乱され」ている》のか?

《映画の冒頭シーンのところで入ってくる人々は「ほんの少しの見逃しですんだ」かもしれないが、すでに着席している側は「大切な大切なファーストシーンの場を乱され」ているのだ。》というツイッターのつぶやきを見て、批判とかではなくあくまでこれをきっ…

仮初に集う(宮﨑駿『君たちはどう生きるか』)

死者と再会することはできる、だがわたし(あなた)が望む姿形、場所でのそれではないし、またそれは一時的でしかないため再び彼らとは別れなければならない、そしてそれがたとえ虚構であったとしても、わたし(あなた)が確かに会ったと思いさえすれば良い…

ペイトン・リード『アントマン&ワスプ:クアントマニア』

https://youtu.be/C64RBMl04bc 評判は悪かったけど普通に楽しめた。みなどれだけのものをMCUに望んでるんですか?やっぱり自分は門外漢なんだなと感じてしまった。多分コミックをちゃんとフォローしてる人からしたら耐えがたいところがあるんだろう、という…

ベン・アフレック『AIR/エア』

顔のクロースアップ同士が過剰なまでに徹底的に繋がり続ける会話劇なんだけど、会話というよりつまりは、これもまた、アメリカ映画の典型の一つでもある、一方がもう一方を説き伏せる「説教」映画である、と言うしかない(「牧師さん」も登場するし)。つま…

井上雄彦『THE FIRST SLAM DUNK』

映画ってそもそも自己と他者、見ているもの(現前するイメージ)とかつて見たもの(過去、記憶)、といった本来区切られていると思われているもの同士が混在して区別がつかなくなるメディアなのでこんなこと言っても詮無いですが、『THE FIRST SLAM DUNK』を…

サム・ライミ『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』

あまりにもサム・ライミの映画すぎる。寄っていくカメラのスピード感ある動かし方、斜めにかしいだ構図、ディゾルブ、顔の並べ方、フェードイン・アウトの連発、むちゃくちゃ最高なアイリスイン・アウト、音の絞り方と爆音の鳴らし方、ダニー・エルフマンの…

マイケル・ベイ『アンビュランス』

映画にまつわる言葉やイメージは完全に統合されきらない。 とはいえ、スクリーンに向かい合う観客の中で、どうにかまとまろうともがき、そして我々も統合しようと試みるわけだけど、そこでなされるのは、仮設であったり、錯覚であったりするしかない。急拵え…

ジョン・ワッツ『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

"care"、"fix"、"cure"という3つの単語について。 最初にメイおばさんの口から"care"という言葉が放たれて、そのアクチュアルさに思わず惹きつけられてしまう。字幕ではそのまま「ケア」だったはず。しかし、この言葉はこの後使われることはなかったように思…

The Best Movies of 2021

また例によって新作もそんな見れてるわけもなく、ただの記録でしかないわけですけど、まぁ一応考えた。意外と邦画が多いのが自分でも驚いたけど、多分どれも小さく縮こまってないつくりの作品だからよかったんだと思います。偉そうだな。11. 劇団ひとり『浅…

劇団ひとり『浅草キッド』

風間杜夫が出演するシーンにカンディンスキーがあるのは一体誰のアイデアなんだろうか。それとも史実の通り?なんだろうか。もしかしたら、「北野武監督」の発案かもしれない。いかにも言いそうじゃないですか。…単なる妄想ですけど。 まぁ、それは置いてお…

フレデリック・ワイズマン『ボストン市庁舎』

たとえば"respect"、それから"immigrant"、そして"community"。 英語を使えない人間として、この約4時間半の映画を見ていくと、次第に特定の単語群が自分の中に残っていくのを感じる(おそらく多用されているということなんだろうけど)。これらの言葉、その…

ローソン・マーシャル・サーバー『セントラル・インテリジェンス』

今作に関しては、ツイッターでも言ったんだけど、完全にこれだった。『セントラル・インテリジェンス』、まさかのローソン・マーシャル・サーバーの『ナイト&デイ』で、しかもジョン・ヒューズ物という…むちゃくちゃですわ pic.twitter.com/CkfEBJIDbi— 庭仕…

リドリー・スコット『最後の決闘裁判』

最初、chapter 1の編集があまりに小刻みすぎて、余韻もくそもなく感じ、これはちょっとなぁ…と思ってたら、2に入っていき、尻切れトンボなカットが、繰り返されて積み重ねられ、観客=自分の中に蓄積されていくような感覚を味わい始めると、じわじわと、本作…

The Best Movies of 2020

今回は、雑に言えば色々あったので、新作と旧作が混ざっている。2020年に見た映画くらいの縛り。あと、ようやくではあるけどちゃんと見始めたのでやたらとNetflixが多くなった、というかほぼそれ。それならいっそ全部Netflixにすればいいという気もしてきた…

川崎拓也・平牧和彦『東京喰種 トーキョーグール【S】』

登場人物たちの武器としての肉体=器官(「赫子」)から爆ぜる赤い火花や肉片、戦いの中で飛び散る血飛沫が、終盤のあるカットで、高層ビル群の無数の赤色灯に重なる。 ここにおいて(両者の「きれい」さが画の中で通じ合うことで)、喰種たち自身、そして死…

サイモン・キンバーグ『X-MEN:ダーク・フェニックス』

期待してた通り良いじゃないっすか。タイトで引き締まった仕上がりで、なんだったらブライアン・シンガーの過去作より全然おもしろい。ただ、かなり、というかはちゃめちゃ女性(のキャラクター)に関する描写や展開がひどくて絶句した。おもしろいからこそ…

ジョン・ワッツ『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』

ヴェネチアでの序盤の戦闘シーンがバスター・キートンみたいで最高!…まぁあれを実際にやってたキートンはすげえって話なんですが(という以下に関係のない感想のようだがあながちそうとも言えない)。 映画を見ることは、始まりからイメージに騙られること…

リドリー・スコット『ゲティ家の身代金』

劇場で見れず、ブルーレイでようやく鑑賞。見終わって、おもしろすぎて放心状態になってしまった。近年のリドリー・スコット作品の中で一番好き。さらに言えば、今年見た映画の中で(とか言っても大した数見てないけど)一番食らった。 異様に細部が艶やかな…

ジョエル・エドガートン『ある少年の告白』

他の俳優よりも、監督本人が演じるキャラクターが登場した瞬間から映画が引き締まるという事態。 映画の中で、秘められること、詳らかに、露にされないことを扱うと、必然的に、それにまつわる言葉や動作といった、ある程度、同じ場に居合わせる人物たちの間…

ロブ・レターマン『名探偵ピカチュウ』

全き、極めてパーソナルで、ドメスティックで、普遍的でないことが、ポケモンと接する自分の中に潜んでいて、それを除くこと、除いて語ることなどできはしないだろう。 そういった記憶や思いを抜きにすることができない人間としては、今から20年以上前、家の…

ガス・ヴァン・サント『ドント・ウォーリー』

AAとグループセラピーと講演会、(今作では交通事故という)決定的瞬間が除かれること、悪態と冗談と親愛の言葉、…おしなべて全てアメリカ(映画)の(重要な)構成要素である。しかもいきなり序盤に、星条旗を背にした演説シーンがあってびびってしまった。…

アダム・マッケイ『バイス』

ともかく、「一度終わって、もう一度始める」という構造が繰り返されていた。 そして、もう一度やる時は、前とは違い、使われるものはまがい物になってる、ということでもあった(むちゃくちゃな法案の中身は変えずに成立させるため、「規制緩和」である、と…

スパイク・リー『ブラック・クランズマン』

サスペンスの盛り上げ方、アンチクライマックス、明らかにタランティーノの手法、センスが使われている。 最初は「俺の方がもっと上手くやるし、ブラックスプロイテーションとかも俺の方が使うべきだろ!」みたいなことなのか、と思っていたが、これについて…

ティム・バートン『ダンボ』

最初に今作についての情報を知った時、ティム・バートンが実写化すべきディズニーアニメは、自分としては、バートン的モチーフに満ち満ちてるから明らかにピノキオだったんだけど、ただ、あえてダンボにしてるというところに期待してたし、あらためて考えれ…

アンナ・ボーデン、ライアン・フレック『キャプテン・マーベル』

予告を見て、倒れても何度でも立ち上がる主人公の画のつなぎに泣き、まさにこれは「なんでもできる!なんでもなれる!」じゃん、と思っていたら、本編もその通りだった。 電車を使った格闘シーンとカーアクション、のあまりのもったりさに不安になったが、そ…

クリント・イーストウッド『運び屋』

ちょっとこれ、一体なんなんですかね。何を見たのかという。 これはもう、イーストウッドの『紋切型辞典』(フローベール)ではないかなと。携帯、メール、Google、「タトゥー」、綺麗に切り揃えられた髭、「マッチョ」、「タンクトップ」、…など、自分より”…

ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン『スパイダーマン:スパイダーバース』

主人公マイルスがやたらと何かを運ぶ映画だった。しかもその輸送は常に失敗する。しかし最後には成功するわけだけれども…。 映画というのは、原理的には、撮影時に何度も繰り返し同じことを演じ、撮られた映像を何度も見て繋ぎ、完成すれば何回でも同じ作品…

ジェームズ・ワン『アクアマン』

最初のシーン、主人公アーサーが生まれるに至る、ある男女の出会いと別れを、愚直に素直にかつ癖の強さも外さずに、過程を描くくだりでめちゃ泣いてしまった…涙が溢れて止まらなかった。こういうのに弱いんですよ。 そして、ジェームズ・ワンをよく知らない…