熊切和嘉『夏の終り』見た。

ともかく画が完成されまくっていた。高低差のある二叉路のショットとか、ロケ地良く見つけたな感も相まって声出た。撮影は近藤龍人。きれてるなぁ。
その完璧さに、こちらのイメージが入り込む余地も、逆に観客内部に混入し別のイメージを構築する要素も、少しもなかった。
彼女と見たのだけれど、満島ひかりは幸薄い役ばっかやってんなぁと言いあった。テレビでも、映画でも。他にやる人がいないのかしらん。
綾野くんはいつもの綾野くん。
小林薫が、劇中で、全力の時代劇風演技をかます姿(ものすごい腹から出てる声、木の棒きれを刀のように抜く所作)、まじでかっこよかった(その後泣き崩れるんだけど)。それを見ると、ぜひ、時代物をやってほしいと思ってしまうくらい。ずっと考えていたんだけど、『駿河城御前試合』で岩本虎眼とかどうだろうか。勝小吉とかもいいんじゃないかとも思った。


天久聖一『少し不思議。』読み終えた。
やはり予想通りすこぶるおもしろい。声出して笑う。
表紙装画を描いている、長尾謙一郎の世界にも通ずるような、狂った、しかし細部は極めて現実味を帯びている。
《冷静に見渡すとそのヒントはいたるところにあった。玄関先に揃えた毛足の長いスリッパ、レトロ調の電気スタンド、ソファに置いた西郷隆盛を可愛くした感じのぬいぐるみ、カラーボックスに並んだ料理本とダイエット本、ベランダの観葉植物、半分溶けたアロマキャンドル、寝室の小さな鏡台と化粧ポーチ、部屋干しされたカラフルな下着類、冷蔵庫のなめらかプリン、冷凍庫のハーゲンダッツ、洗面台のコップに差した二色の歯ブラシ。》(p58)
《買い物袋で両手がふさがっているとき、菜津子はいつもインターフォンで俺を呼んだ。俺がテレビで笑うとすぐに飛んできて説明を求めた。スウェットの尻がたるんでいた。エプロンの蝶結びが縦になっていた。風呂の設定温度でケンカになったことがある。タバコ臭いと怒られた。スリッパ履けと叱られた。外れた網戸を抱えて泣きそうな顔をしていた。目当ての焼き肉屋が閉まっていたときは本気で泣いていた。小さなことでよく笑った。俺の冗談で笑った。すれ違う小学生のギャグでも笑った。公園の鯉にエサをやったときは「集まりすぎて怖い!」と笑っていた。実家からの電話では突然方言に戻った。ケータイで月を撮っていた。あれはいつだったか、夕暮れで雨が降っていた。駅から変える道すがら、偶然コンビニの窓越しに立ち読みする菜津子を見掛けた。俺はなぜか急に菜津子が知らない他人のように見えて寂しくなった。それで窓を叩くと、顔を上げた菜津子は驚いたような、嬉しそうな笑顔を見せた。》(p212-213)
バカドリル、バカサイブッチュくん、味写、ノベライズシリーズ、書き出し小説大賞、ブロスの電気グルーヴインタビュー、といった世界に触れていれば、このすばらしい描写が書ける人だってことはわかるわけで。
向井秀徳『厚岸のおかず』を思い出したり(向井さんにも長編小説を書いてほしい)、スクーターとジェットスキーのくだり、いがらしみきお『Sink』だなと思ったり。

サミュエル・ベケット『並には勝る女たちの夢』、内田樹『疲れすぎて眠れぬ夜のために』(粗悪さんが、内田樹ならこれ、と推薦していたので)、古里おさむ『ロードショー』買った。

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