おもしろかった本2023年

今年は、読めた月と全然読めなかった月の差が激しかった。
前半は、大した量ではないけど、大江健三郎を集中して読んでいた。当然まだ未読作品は残っている。亡くなったからって読み出してどうすんだという気もするが。
そして1冊何かを選ぶなら、やっぱりバルト『テクストの楽しみ』かな。読んでいる間のワクワク感半端なかった。頭の中でイメージとイメージ、イメージと言葉、言葉と言葉、が結びつき続ける感じ(想像界象徴界のたえまない接続?)。

坂口恭平『けものになること』
坂口さんの小説は初めて読んで、その縦横無尽さに感動。他を読みたいと思いつつなかなか手が出ない。『建設現場』か『家の中で迷子』のどちらかを次は読みたい。

アナ・チン『マツタケ 不確定な時代を生きる術』
昨年末から読み始め年明けに読み終わった。ともかく雑多で、博覧的?な本。

深澤直人『ふつう』
鼻につくくらいまでに研ぎ澄まされている。

大江健三郎『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』
「生け贄男は必要か」という、自分にとっての大江健三郎ベスト短編に出会うことができた。これをベストにするというのもどうかと思うが。

青山真治『宝ヶ池の沈まぬ亀Ⅱ ある映画作家の日記2020‒2022 ―または、いかにして私は酒をやめ、まっとうな余生を貫きつつあるか』
ともかくこの本を読み終えた時の、放心状態というか、何も考えられなくなった時のことを覚えている。

立ち直り直し続ける、というのはえらく婉曲な言い回しだがどうもそのようになる。もしかすると立ち直るということはとうとう訪れず、今後も繰り返し立ち直りをやり直しながら前へ進む、ということのような気がしてならない。(p344)

大江健三郎『水死』
恐るべき強靭さで書き連ねられていくモチーフ。そしてどうやらこのモチーフをずっと抱え続けていたと思われ、常軌を逸してるだろと思った次第。しかしそれが小説家なのかもしれないから別に逸してないのか。

坪内祐三『本日記』
全くの偶然で手にとって、とはいえ本を手に入れることは常に偶然性の営為ではあるけど、ともかく読んでいる間ひたすら共感し続けられた、そのし続けられたことがすこし怖かったくらい。ツボちゃんほどの知識量、貪欲さはわたしにはないけど。それにしても多分、今思えば再読だった気もするが、他の日記だったのかもしれず、記憶は曖昧。

アラン・ロブ=グリエ『弑逆者』『反復』
なぜか今年2冊のロブ=グリエを読むことができた。読んでる最中のおもしろさ、読み終わった後の何を読んでたかわからなさ。

マルセル・プルースト失われた時を求めて5 第三篇 ゲルマントの方へⅠ』『失われた時を求めて6 第三篇 ゲルマントの方へⅡ』『失われた時を求めて7 第四篇 ソドムとゴモラⅠ』
今年も!読み切ることが、当然のようにできなかった。いつ終わるんだ。ただこれまでと違うのは、プルーストの筆致、今作の展開が自分の身に染み込んでいるので、いつでも読み進めを再開できるという自信が備わったということ。今年は何を読んでも、例えばロブ=グリエでも大江でもウルフでも、そして何よりナボコフも、プルーストを想起してしまい、というかこれら全ての作品、作家はプルーストを前提として小説を書いてるんだなと、めちゃくちゃ当然のことに気づいた。はっきり言って、どんな小説よりおもしろい、とわたしには思える。まだ読み終えてないけど。


『世界』2023年8月号
ツイッターで入手困難という知らせを見なかったら買わなかったし読まなかった、と恥ずかしながら書かせていただく。てかこれを毎月買って、読み切ってる人がいるのか?内容厚すぎ深すぎて読んでいてめちゃくちゃ疲れた。

伊藤彰彦『仁義なきヤクザ映画史』
映画制作の闇、いやもしかしたら光、映画館で放たれる光とは違う別の光についての本。前者と違い後者の光の中では偽物ではなく本物の死がある。

東浩紀『訂正可能性の哲学』
これは別にディスではなく書くが、極限まで構築しきった哲学の理論から、紆余曲折あって、この"言い訳"に満ちた哲学ができあがったのは、なんだか感慨深い。「訂正可能性」にも「哲学」にも両方"言い訳"というルビがふれる。つまり『言い訳の言い訳』?

トーマス・ベルンハルト『消去』
がんばって読み、おもしろかったが、当分ベルンハルトはいいかな…と思いました。疲労感、徒労感、アンチヨーロッパ、アンチ近代社会。小説を書こうと思っても書けない、というのもまた『失われた時を求めて』じゃねえか!

兼本浩祐『普通という異常 健常発達という病』
兼本先生の本は毎度むずい。と言いながらちょこちょこ読ませていただいている。今作はタイトル通りなわけですけど。他者性、ラカン的な話とか。郡司ペギオ幸夫『やってくる』すぎることが書かれてたのですぎるなぁと思ってたら終盤で登場したのでやっぱりって感じ。

ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』
これもまたなぜか今更買って今更読んだ。もはやこれはただのウルフの小説だ。

各人は、状況次第で些末事だったり重要事だったりする他の用事にいつでも応じられるように、言わば気もそぞろになりつつ、やりかけのことを続ける。(p232)

佐々木敦による保坂和志(仮)』
保坂さんの放言がちょこちょこ読めてよかった。というか近年の保坂和志作品に何かを語るなんてとんでもなく難しいと思う。小説を書き始めたあっちゃんは真摯だ。

ロラン・バルト『テクストの楽しみ』
バルトも、毎回読んでおもしろいのだけど次が続かない。まだ読んでないものが山ほどあるが。喪の日記か声のきめ、どちらかを読みたいと思ってる。

『矢野利裕のLOST TAPES』
これにしても、佐々木のあっちゃんのやつにしても、文フリで売り出したものをあとから必死こいて入手しようとしてるから、いい加減文フリ行けよという話かな。矢野さんのECD追悼文を、ネットで何かのたびに読んでいるんだけど、それが今回書籍となったので、それを手元に置いておきたく買った。

片岡一竹『ゼロから始めるジャック・ラカン ─疾風怒濤精神分析入門 増補改訂版』
ラカンの本、ラカン自体も解説もそこそこ読んではきたが、よくわかっていないことが大半だったので、今回これを読んでなんとなく理解が進んだ気がした。気がしただけか?
また、精神病との対比でサラッと神経症について説明されておりそれがわかりやすかった。

ほそやゆきの『夏・ユートピアノ』
漫画を読んでないわけじゃないが、連載しているものが多いので、おもしろい本としてとりあげようと思うものとなると、そんなに数がない。そんな中、本作は度肝抜かれるすごさだった。こういうすごさ、洗練、センスの良さは、自分にとっては漫画でしか得られないものだ。

最後にこの本をあげる。来年は読み終わりたい。