ジェフ・ニコルズ『MUD -マッド-』見た。

買ったチケットが違った時間のもので一瞬焦ったんだけど、なんとかなった。
ま、それはともかく。
なんてヘヴィな愛の物語なんだろうか。そのもの、行為、を直接描くことなく(「まともな」キスシーンもない)、しかしラブストーリーとしか言いようがない。愛し合う男と女は、触れ合いも、言葉を交わす姿も見せず、唯一あるのは、離れた場所から互いを見つめ(「発見」しあう)、弱弱しく手をふりあうことだけだ。
マシュー・マコノヒーの魅力、ここに極まれり。画面に映し出される彼を見ている間ずっとどきどきしていた。かっこいい、とも違う、…つまりこれが、sexyであるということか。服を着ている方が艶やかだ。いつもの、最早定番といってもいいかもしれない、独特の節回しがある台詞回しが染みる。
神話というより、アメリカの伝統的昔話、フォークロア、のようだ。「川」「島」「町」、とそぎ落とされた舞台設定。マコノヒーa.k.a.マコ兄さん演じるマッドは、ハックルベリー・フィンのようでも、トム・ソーヤーのようでもある。縄に自身を括りつけ木からぶら下がる姿はターザン、エリスの部屋に窓から入ってくる姿はピーター・パン。
彼を支えるまじないや迷信、その象徴である白いシャツを終盤脱ぎ、再び羽織るその姿は、前出のキャラクターたちに代表されるような、まさしく古来よりの、「おとぎ話」のヒーローを彷彿とさせる(スーパーマンバットマンではなく)。
だから当然、主人公の出自なんてわからない。正確な情報なんて無い。親もいるんだかいないんだかわからない(とはいえ、最後におまけ的に、サム・シェパードの口から「son」という単語が発せられるわけだけれど…字幕には反映されていなかったが)
逆に、エリスは常に、父と、母との関係をその身にまとわせている。連呼される末尾の「sir」。
ラストには銃撃戦もまちかまえてるのだから、なんとサービス精神にあふれたアメリカ映画だろうか。短銃ではなくショットガンやライフルによる、至近距離での重々しいスピーディーさのない(「泥」臭い)ガンファイト。そこに外部から飛び込んでくるのは…持つべきものはスナイパーのおっさん、ということか!!(『アウトロー』のロバート・デュバルを思い出したり)
傑作でした。


昨日の夜結局夜更かしまくって『夕子ちゃんの近道』読み終えて、今日、長嶋有『タンノイのエジンバラ』買った。

タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))

タンノイのエジンバラ (文春文庫 (な47-2))