ヨーゼフ・ロートラデツキー行進曲』下巻読み終えた。
《おそらくそれはソルフェリーノの英雄の声であったのだろう。彼は自分が祖父と一体になっているのを感じた。彼自身がソルフェリーノの英雄だった。父の応接室の格天井の下で薄暗くかすんで見えたのは、まさしく彼自身の肖像画だったのである。》(p294)
《そのまじりけのない銀色は、フォン・トロッタ氏の現世の生活の真っ只中ですでに始まっている未知の、ひょっとすると来世の日の輝くような穏やかさを呼吸していた。それはちょうど夜の星々がいまだ煌めいている間に、この世の朝が白みかけている、そんな情景に似ていた。》(p301)
トロッタ家三代の栄枯盛衰と、オーストリア=ハンガリー帝国の没落と、フランツ・ヨーゼフ皇帝の生涯、が重なり、それぞれがそれぞれの写し絵となる。という小説の書き方に良い意味で時代を感じる。