ピーター・バーグ『マイル22』

映画には、見ている自分自身にブーストがかかるシーンがあって、そういうものがあると一気に入り込めるというか、ぐっと前のめりになることができるのだけれど、この映画の場合は、マーク・ウォールバーグ演じるシルバとの会話によって、ジョン・マルコヴィッチ演じるビショップの足元、スーツに似つかわしくない「スニーカー」が出てきたところだった。物語内におさまらない、しかし完全に外部でもない、その2つの領域が入り混じった演出/描写/アイテムであるから、ということだろうか。

そしてやっぱりピーター・バーグは、変則的であるけれど、過去作から常に、「アメリカ」の「敗北」を描こうとしてるんだなと感じた。

つまり、ともかく喋り続け、他者を恫喝し嘲笑い挑発し、"Mother"(という呼称を持つ部隊の本部の分析官)に教え(現場の状況、次にどう動いたら良いのか)を乞い続け、その"Mother"からコードネームで"Child"と呼ばれる男とは、一体何の代理表象なのか、ということ。その男はスティーブン・バノンを名乗り、ウォーレン・バフェット(とその支持者)を嘲り、同僚からはさまざまな「病名」を当てはめられるがその実ただの"shit"だと称される……。

M・ナイト・シャマラン『ミスター・ガラス』

泣いた……これはもうほんとに「シャマ泣き」です(?)。この作品に関わらず、長ければ長いほどスムーズにいかず、一手一手で引っかかっているような奇妙さのあるシャマランの格闘シーンになる終盤は、普通にずっと泣いていた。それはもう、ここまでたどり着いた、その道行を思って、だけど。そして、エンドクレジットが始まり、この映画の真のタイトルが明らかになる瞬間に猛烈に感動した。その3つの単語(タイトル)は、一列に並ぶのではなく、おそらく3つが並列になる。そしてあるキャストの表記ににっこりと微笑んだ。

ちなみに、今回のオープニングクレジット、今までのシャマランの映画の中で一番かっこいいです。そして、そこからの冒頭、人物が部屋の中に入ってくるのを部屋の中からとらえているカットで、その入り口がやたらと大きくて、まるでその人物のサイズが縮んでしまっているようにも、部屋が巨大化しているように見えた。こういう、偶然と狙いが入り混じり、作品の中で奇妙な異物のように存在する画から映画が始まってくれると、一気にひきつけられるのでありがたい。

また、『ヴィジット』あたりから、過去作とは違った風にちょっと半端ないほど構図がキマっているシャマラン作品。今回のカメラマンは『スプリット』、そしてデヴィッド・ロバート・ミッチェル(!)と組んでるマイケル・ジオラキス(imdbによると、なんとジョーダン・ピール『Us』もそうらしい!)。特に、精神病院の周囲、ほとんど無人の風景をとらえた、何気なく使われてる3カットほどの画が異様にすばらしい。あとは、以前シャマランが作ったマスターカードのCMを思わせるシーンがあってめっちゃテンションあがってしまった。


M. Night Shyamalan's "Time to Dream" - American Express

(矮小化するような、「悪しき」)解釈には(力をより強大にする、開放的な)解釈を。秘匿するな、全てを詳らかにせよ。そんな強いメッセージを受け取った。

ただ、『スプリット』の時に宿題として残していた(http://niwashigoto.hatenablog.com/entry/20170512/p1)《現実vs虚構→現実が勝ち》という構図に対して、今作がつけた落とし前は、少なくともこれまでのシャマランのような、《虚構=フィクションによる救済》ということにはなっていなかったように思う。これは今後も考えなくてはいけないことだけど、今の時点ではとりあえず、現実も虚構もどちらも壮大な「フィクション」であって、どちらの「フィクション」の肩を持つか、ということなのかな、と思っている。

なお、『ヴィジット』ではタイラー・ザ・クリエイター、『スプリット』ではカニエを(名前だけ)登場させたわけですが、今作ではドレイクです(しかもまた曲流さない!)。

ダン・ギルロイ『ローマンという名の男 ー信念の行方ー』

主人公ローマンの、記憶力や集中力が高く、空気が読めず自分の考えに固執して我慢できず思いついたことを口にしてしまう、時に自身の周囲の会話がまるでフィルターかかったように聞き取りづらくなってしまう(と思われる演出がある、比喩としても取れるけど)という姿、完全にある種の症例ではないか?と思ってしまってつらかった。

裁判所に入る際のX線の荷物検査で、愛用のiPod classicが、前にX線でダメになってしまった、ギル・スコット・ヘロンのアルバム1枚がまるまる低音がおかしくなった、みたいな、完全なる根拠のないいちゃもんを言う。他のシーンでも、その場になじまない、自分だけの理屈みたいなことを述べる。その時他者は「苦笑」し、変わり者(freak)だと嘲る。

そもそも彼は、一人でいる時は必ずヘッドホンをつけ、話しかけられてもすぐに反応ができない。自宅では、何度も抗議するが止まることのない、近くの工事現場の音をかき消すようにレコードをかける。iPod classicが、そして音楽が、この映画では、他者と自分を隔絶し、ある種のチャイルディッシュさ、無力さを表すアイテムとして登場している。『ザ・ウォーカー』で、過去の文化を愛で、その良さを理解していることの象徴としてぼろぼろのiPod classicが使われていたのとはまるで違う。ちなみにその時の主人公イーライがビーツのヘッドホンで聴いていたのはアル・グリーンだ。ローマンが聴くのも、過去の優れた黒人のミュージシャンが作った曲のはずなのだが(ちなみにこの映画、当初のタイトルは『Inner City』だったらしい)。

しかし、ヘッドホンをつけている彼に話しかけて、それを取らせて話をしようとする人間が現れる。彼らは、観点は違えど、ローマンの能力を評価して生かそうとする。だがそれは結局、彼を、かつて足を踏み入れていなかった領域へといざない、過去の蓄積を捨てさせることになるという、不幸で皮肉で逆説的な展開を迎える。そういう主人公を弁護士だとして、裁判や、犯罪や、法律にまつわる話題を通して描くのは、つくづくアメリカ的だと思う。

デンゼル・ワシントンが、『フェンス』、今作、『イコライザー2』で、自分の世界を持ちそれゆえに外界とずれていく人物を演じているのはなにやら示唆的だ。そして彼らはそれぞれ異なった形でアメリカを表象している(『マグニフィセント・セブン』のチザムも、その文脈を用いるとまた違った見方ができるかもしれない)。

マーク・ウェブ『gifted/ギフテッド』

冒頭の朝食を食べるシーン、2人の人物の顔のワンショット、そのサイズや構図、ワンカットの長さ、切り替えしのテンポを見ただけで、もう満足、という感じ。この映画が信頼できるというのがすぐわかる。わかってしまう怖さ。カメラワークはすばらしい。ここぞという時の引きの画の使い方。

(血縁と愛情の有無によって為される)「親子」の相対化、才能・天才、落ちぶれているが隠れた能力を持つ「陰のあるイケメン」、「外」と「内」の空間を生み出すものとしての車(窓の開閉)、そして何より裁判。アメリカ映画(≒アメリカ)の大好物が盛り込まれている。他者の言葉・言い回しを使う行為もそうだ(それもまた「裁判」だ)。脚本の良さ。そして101分という点も文句なし。マーク・ウェブ、うまい。

gifted/ギフテッド (字幕/吹替)

gifted/ギフテッド (字幕/吹替)

  • Marc Webb
  • ドラマ
  • ¥2000

久保明教『機械カニバリズム 人間なきあとの人類学へ』

機械カニバリズム 人間なきあとの人類学へ (講談社選書メチエ)

機械カニバリズム 人間なきあとの人類学へ (講談社選書メチエ)

 

人間と機械・非人間はお互いに影響を与え合って変化する。なので、どちらかがどちらかを支配し操作する一方的な関係性ではない。だから、超越的な存在もいないので、それらは、すべてを包括する一つの世界の中にあるのではない。また人間や非人間それぞれの個別の世界があるのでもなく、それら同士の関係性、結びつきによる(無数の)世界が存在しているだけ。

という内容は、マルクス・ガブリエル『なぜ世界は存在しないのか』にも通じていた。というか同じことが書かれていると思う。 

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

 

ある種の突拍子もなさを腑に落とさせるために、将棋の電王戦とかLINEとか『何者』とかを事例に使って、ある程度の分量を費やして書かないといけないんだなと思った。これが小説だったらそういうことは必要ない気もしたけれど、そんなことはないか。やっぱり分量は必要か。

2018 BEST ALBUM + α

今年も去年と同じくよく聴いたものから選んだ。結果若干反動的(?)なものになってしまったけど、個人の趣向なので仕方がない。

気分としてはアルバムの完成度がめちゃめちゃ高まってないなら、かえって寄せ集めというか、バラバラのほうがいいんじゃないかな、と思っている。

あと、上位2枚?3枚?4枚?が自分の中では圧倒的(映画ベストもそんな感じがしてる)。

 

20.Cornelius『Ripple Waves

open.spotify.comいきなりのリミックス。元々のアルバムよりこっちの方が好き(自分はそういうのが多い)。愛せる雑多さというか、力抜けてるというか、かわいげがあるというか。なんか偉そうですね。そりゃあ「Passionfruit」の破壊力はあるけども。

 

19.tofubeats『FANTASY CLUB REMIXES & INSTRUMENTALS』

open.spotify.comまたリミックスかよ。それになんで『RUN』じゃないんだ(いやもちろん素晴らしいと思ってます。曲だけでなく言葉のセンスも本当に心に迫ってくるものがあるし。それこそ「RUN」とかね)。別に逆張りとかではなく純粋に、今年よく聴いていた。「WHAT YOU GOT(TB DJ DUB)」こっちの方が良いよねー。あと、やっぱインストもいい。優れたメロディーメーカー、トラックメーカーであることをあらためて。tofubeatsで一番好きなアルバムは『STAKEHOLDER』なので、そういうことなんだと思う(?)。ちなみに『POSITVE REMIXES』も好き。

 

18.JMSN『Velvet』

open.spotify.comブギー的なやつはたくさん出てますが、その中でいちばんよかった。音がファットで好みのリズム。いなたいシンセも定番っちゃあ定番なんですけど好きだからしょうがない。シャッフルで聴いてて、あっ良いな、と思ってみるとこのアルバムであることが何度かあった。

 

17.青山テルマ『HIGHSCHOOL GAL』

open.spotify.comこういうことをやってのける、とんでもなくかっこいいと思う。バラエティーに富んだ豊かな曲調が揃ってる。現行の流行りっぽさと懐かしさがいい感じでブレンドされてる。コントロールされた歌い方もいい。《cuz im poppin'》ですよねマジで。

 

16.Tyler, The Creator『Cherry Bomb + Instrumentals』

open.spotify.comこれを良いと感じたの、今年一番サプライズだったかもしれない。最初はなんでいまインストを?と思ったが聴いたら一発で納得した。うまく言えないが、今だからこそ、という感じ。…言葉にするの難しいね。ラップがなくなったことでアクチュアル感が増した?

 

15.Joey Purp『QUARTERTHING』

open.spotify.comアルバムを再生した瞬間に、ベタさに驚きまくってしまった。しかし決して古くはないです。アップデートされた音色。テンション高いなー。近年、テンション高いヒップホップ、珍しくないですか。

 

14.No Rome『RIP Indo Hisashi』

open.spotify.com4曲しかないEPだけど選んだ。超好き。聴くとのっちゃうね。もちろんThe 1975なんだけど、まぁ…てかあのテイストをバンドでやってる方がおかしい(いい意味で)。このEPみたいなの(ある種のパーソナルさ?)が本来の形でしょとは思う(The 1975が悪いって言ってんじゃない)。「Saint Laurent」のハンドクラップとかたまらん。

 

13.Tempalay『なんて素晴らしき世界』

open.spotify.comうねうねと響くベースとギターとドラムが思う存分味わえる。アレに似てるコレに似てる、って思わなくもないんだけど、この手のバンドサウンドが好きなんだからしょうがない。

 

12.KIRINJI『愛をあるだけ、すべて』

open.spotify.com歌詞、ほんと、やばすぎる。真に迫り、身につまされる。なんというか、赤裸々。《明日こそは 明日こそは 昨日よりマシな生き方したいね》……。曲の一筋縄ではいかなさよ(それはいつもか)。

 

11.JPEGMAFIA『Veteran』

open.spotify.comトラック、おもしろすぎ。聴いてて飽きることなし。めっちゃイル。そしてラップもイル。ただしっかりメロウなのがいいところ。

 

10.Nas『NASIR』

open.spotify.com優れたラッパーが中心に据えられる、それだけで音楽は魅力的なものになる。なんと充実したラップ。サンプリングもナズに合わせてなのかオーセンティックさが出てて、安心のカニエ印。

ただ普通にある程度分量あるアルバムにした方が良くないですか?

 

9.早見沙織『JUNCTION』

open.spotify.com完成度高すぎるポップス。当然のごとくハイクオリティーなボーカル。作詞作曲、アレンジャー、プロデュースワーク、全てが良すぎる。こういうものが達成されてしまう、声優楽曲(ってカテゴライズしてるわけじゃないですけど…)の恐ろしさ(アイドルでもなんでも、J-POPでここまでいってるやつ、最近ありますか?)。お金がかかってる…つってもそんなことなさそう(失礼)。業界としてお金があるからこそ、こういう、売れ線まっしぐらではない、グッドミュージックを出すことができるのかも。

 

8.TENDRE『NOT IN ALMIGHTY』

open.spotify.comこんなにアルバム全曲良いなんてことあるか。一つ一つの音も質が良い感じ、聴いていて気持ち良い。こういうのを一人でやってるってだけでグッときてしまう。

 

7.『Call Me By Your Name(Original Motion Picture Soundtrack)』

open.spotify.comサントラだし、音源としては今年ではないけど、今年日本公開の映画のものということで選ぶことにした。かなり繰り返し聴いた。映画自体もそうだけど、ともかくセンスありまくり(既存の曲の選び方!)。とにかく1曲目と2曲目のつなぎが完璧。劇中で軽くダサい扱いを受けてた曲もこのアルバムの中では全然そんなことない。コンピレーションとしての流れがよくできてる。単体で聴いた時ピンときてなかったスフィアン・ティーヴンスもいいと思えるから不思議。

 

6.XXXTENTASION『?』

open.spotify.com初聴時、いやこれまじでなんなんだ!?と呆然とした(タイトルじゃないですけど)。こういうのを歌心ある、と言うのかなと。ギターがともかく鳴り狂ってる。そしてあのシャウト。聴き終わった後の寂寥感。『SKINS』もよかったすね。

 

5.『Black Panther The Album Music From And Inspired By』

open.spotify.comヒップホップは、R&Bは、ソウルは豊かだなーとしみじみすることのできるアルバム。洗練されていて上品。それがケンドリック・ラマーということなのか…。沢山のラッパーの方々もベストワークをかましてくれているし(大好きなスクールボーイQ、ヴィンス・ステイプルス、ジェイ・ロック)、ウィーケンドもすばらしいです。

 

4.Justin Timberlake『Man of the Woods』

open.spotify.comカテゴライズしようとするとそこからスルッと逃げていく。ブギーの流れは確かにあるし、マイケルマナーもある、(久々の!ネプチューンズや盤石のティンバランドプロデュースの良さもある、本人の出自たるカントリーテイストも(門外漢ながら)感じることもできる。それらが入り混じり、まさしく、やりたいことをやっている、その風通しの良さを覚えた。

 

3.三浦大知『球体』

open.spotify.com恥ずかしい話、今まで三浦大知さんの楽曲やアルバム、聴いてはいたけどそこまで良いと思ってはいなかった。ただ今作は(初めて聴いた時には実はそうでもなかったんだけど…)どハマりしてしまった。技術のある人に、制限や枠組みを与えられた時の表現の良さを感じた。例えるなら、勢いよく降り放った手足を空中でピタッと止めた、その姿の美しさを感じられるアルバム。

 

2.cero『POLY LIFE MULTI SOUL』

open.spotify.com本当に良いリズム。快楽的であるがどこかに常に引っかかりが潜んでいる。そこにグイグイと力強いテンションでボーカルがのっかり、聴いている身体の中で混ざり合い、何かこう、パワー的なものが溢れてくる(語彙力無し)。まさしくグルーヴィーだなと…。

 

1.A$AP Rocky『TESTING』

open.spotify.com新しいというのとも違う、こういう時、ヒップホップには便利な「フレッシュ」という言葉がある。聴いていてともかく耳が喜ぶ音が鳴り、なにより素晴らしいメロディーがある。リリックの、自分が理解できる数少ないフレーズも、享楽的なものよりむしろある種の確固たる信念を感じさせて胸に迫る(もちろん享楽的なものも好きですし、享楽性にも信念があるのも理解してますが)。

 

 

アルバムではなくて、よかった曲。

Official髭男dism「Stand By You」


Official髭男dism - Stand By You[Official Video]

 

Justin Timberlake「SoulMate」


Justin Timberlake - SoulMate (Audio)

 

Childish Gambino「Feels Like Summer」


Childish Gambino - Feels Like Summer (Official Music Video)

 

Shuta Sueyoshi feat. ISSA「Over "Quartzer"」


【OFFICIAL MV & TV SPOT】Shuta Sueyoshi feat. ISSA / Over “Quartzer”

 

Post Malone & Swae Lee「Sunflower (Spider-Man: Into the Spider-Verse)」


Post Malone, Swae Lee - Sunflower (Spider-Man: Into the Spider-Verse)

 

私立恵比寿中学「スウィーテスト・多忙。」


私立恵比寿中学「スウィーテスト・多忙。」MV

 

 

今年は、リチャード・パワーズオルフェオ』を読んだおかげで、今まで聴いてこなかった現代音楽的なものに少しばかり触れることができた。スティーヴ・ライヒをよく聴いた。あとはブーレーズショスタコーヴィチ交響曲高橋悠治演奏のケージ、クセナキスメシアン

あとはサントラをよく聴いた(セレクトは偏ってますけど)。

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毎年ですけどヒップホップをよく聴いているので別途選んだ。

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そしてこの2枚を挙げて終わります。 

21世紀のECD

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クリストファー・マッカリー『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』


ローグネイションと今作は真の意味で2部作(直結してるという意味ではない、けど、2本を続けて1つの作品としても遜色ない)なので、さしずめ"fall nation"とでも言えばいいのかな…とか考えてた。


ちょっと…完全に動揺してしまった。ここまでの美しい、様々な光がデザインされた、完成度の高い構図の、パーフェクトなカメラ位置の画が乱発されるとは思いもせず…尋常じゃないな。
街灯や室内の明かりの、光の滲み方(J・J・エイブラムスのフレアをちょっと思い出すが、あれより確実にナチュラル)も印象深いんだけど、びびったのは輸送機の中のカット。外からではなく中から、あそこまで引いて全体をとらえた画はなかなかないんじゃないか。というのも、あそこには2人の男しかなくて、しかもその2人のやりとりを見せれば本来は十分なはずなのに(激しい格闘も、他にとらえるべきアイテムもないーー巨大な恐竜や、古代の遺物を運んでるわけでもないーーから)、顔もわからないサイズまでカメラが引いてある。それによって強調されるのは、飛行機内部のメカニカルさ、その全体の意匠や細部の質感。それは短いカットなんだけど、目を惹く美しさすらあった。
そして、予告でも使われてたトイレ(白い陶器、鏡)にしろ、最後の「村はずれの家」(古びた床板、縄)にしろ、ベルリンやロンドンの石造りの空間(暗闇と閃光、銃撃音)にしろ、格闘シーンを描く場所は、ある種の美的センスによって統一されてる。例えば、ゴーストプロトコルの同種のシーンはどこを舞台としていたかを考えるとわかりやすい(ブルジュ・ハリファや立体駐車場)。そこからローグネイションでは古い都市、その地の構造物を舞台とすることが増えた。
そして今作では、ゴーストプロトコルにさえあったような、(虚構であるにせよ)先端テクノロジーが使われた攻略の対象物(システムそのものや建築物)すら登場しない。
さらに作中使用されるガジェットも古典的なもの(もしくは古典的な装いをしたもの)にとどまっている。
なので必然的に、ますますクラシックな画作りに向かうことになるのだが、それと接続されるのが、異常で過剰なアクション、繰り返し行われるその場その場での"solution"の"figure out"(なんどこのセリフが使われるだろう)なのだから、ますます全体が歪なものになっている。
おそらくその、崩れた全体のバランスをある程度統一する機能として、ある物語が流入されるのだけれど、しかしそれがよりによって『オデュッセイア』で、本作によって、イーサン・ハントはオデュッセウスであるということが唐突に提示されてしまうのは、さすがに呆然とした(オデュッセイア読んだことないから適当言ってますけど)。
読んでなくともオデュッセイア貴種流離譚であることは知ってる。つまり、今作のみならずシリーズ全体を、イーサンの帰還の旅と再定義するということなのか(しかし、彼はどこへ帰り着くのか?)。
そして、少なくともオデュッセウスを待ち続ける妻ペネロペがいるのも知ってる。それがジュリアってことなんだろう。ならばその舞台をお膳立てした(って理解であってんだよな?)レーンがホメロスなのか???