ジェームズ・マンゴールド『LOGAN/ローガン』


アメコミという恐るべき芳醇な文化が、最良のアメリカ映画を、激しく炸裂する暴力の物語であり、目の眩むほどいびつで美しいフェアリーテイルでもある作品にしてしまったことにただただ驚くしかない。そして、もちろん西部劇ではあるんだけど、ウルヴァリンはまるで、スネーク・プリスキンにすら思えて、いかにカーペンターが偉大であるかをしみじみと感じた。酒を飲んで悪態をつき、苛つき、傷ついた身体を引きずり、咳込み、助けを求められても応じず、怒りと哀しみと後悔と諦念に支配された、"ヒーロー"。

ウルヴァリンと言うキャラクターはその特性によって(フューチャー&パストで主人公格になったのも、彼の能力ゆえである以上に、この作品が時間をモチーフとして扱っているから)、映画では常に自身の過去からやってくる、自分自身が生み出した敵によって苦しめられる。それゆえに必然的に彼は常に自分殺しの宿命を負う。X-24が登場した時、髪型のせいもあるんだろうけど、明らかに『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』のリーヴ・シュレイバー演じるセイバートゥースに似ていて、まるであの兄弟の闘いが繰り返されたように見えた。

今作のモチーフは『ウルヴァリン: SAMURAI』(http://d.hatena.ne.jp/niwashigoto/20130913)で提示されてたのに気づいた。ウルヴァリンの昏睡と目覚め、父娘と血統、奇妙なバディ物(マンゴールドの作家性かも)。ウルヴァリンを"獣"にするのは森、というのもある。さらにマンゴールドの過去作で何だろうと考えた時に、意外と『ナイト&デイ』じゃないかと思う。ヒロインがやたらと昏睡する!(…といえば『スプリット』でもそれを感じていた)

他に印象的なのは、ボイド・ホルブルック=ドナルド・ピアースの絶妙な"弱さ"!(チンピラ、サラリーマン、一兵卒…少々の賢さでもってなかなか"やられない")それが些かも作品を損なってない。登場するシーン、彼が車のフロントガラス越しに姿を見せるだけで、ローガンが、物語全体が置かれる状況が一瞬で把握できる。

子どもが、大人しかできないと思っていたことをやってのけてしまう(そしてその行為が決して大人占有ではないことに気づかされる、し、大人と子どもが相対化する)という映画があるけど、本作はそれが炸裂しまくってて、それを見るだけでもうれしい。なので、見ていて、あっ『COP CAR/コップ・カー』じゃん!というシーンがあり、果たしてジョン・ワッツはホームカミングでどれほどのことができているんだろうと思いを馳せずにいられなかった。

そして何より、"introducing DAFNE KEEN"というクレジットの力強さよ!本編見た後このオーディション映像見ると沁みるものありすぎる。

ローラの目の前に猛スピードで突っ込んでくる車。彼女は、まるで轢かれるようにフロントガラスに飛び乗り、運転者のローガンとの間に視線が交わされるだけで、間髪入れず車に乗り込む。そのシーンに、信頼関係以前の、動きと動きのぶつかり合いと結びつきのようなものを見てとれる、その感動ははんぱじゃなかった。