川本三郎マイ・バック・ページ ある60年代の物語』を読んだ。おもしろかった。逮捕されるにあたって四方から追い詰められて弱くなっていくのはそんなもんかなと思う。これを映画にするにはどこからスタートするか。逮捕前の局長と泊まったホテルからか。そこから回想みたいに始めて、現在時を追い抜いていく、とか。朝霞の事件の細部はあまりなかったから微妙だけど…犯人のKの、なんというか虚実ないまぜな感じは誰かに似ている。
ポール・トーマス・アンダーソンパンチドランク・ラブ』をDVDで見た。これは、もう完全に映画でしかない。映画以外に有り得ない。それは、この映画が、細部の、エピソードですらない、独特のディテールに満ちているからで、それは、音や光に支えられているゆえに、映画でしかできないことだと思う。例えば、音。ともかく轟音が響く。この映画は、銃撃戦や爆破があるわけじゃないのに、びくっとするような爆音が、別にそんなにしなくてもいいのに、というとこで使われる。がでも、それだからこそ意味があるわけで、そういうシーンには絶対その音じゃなきゃいけないんだろう。冒頭のものすごく最高な車の事故の音(そしてアダム・サンドラーと恋人が車をぶつけられた時)、アダム・サンドラーが1人でいる時に当たり前だが突然開くシャッターの音(とともに差し込んでくる外光)、無音でむやみやたらと明るいスーパーで冷蔵庫を開いた時に聞こえる音、そして電話のベル。いや、音なら、ハーモニウムも言わなきゃいけないだろう。あとサントラも、不協和音と生活音が微妙に交ざっでいい感じでわかりにくくてすばらしかった。
「むやみやたらと明るい」人工の光、ハワイの夕暮れの光と街灯がまじったような感じの中の電話ボックスの灯、ホテルの廊下を歩く2人を包むまだらの光、朝もやに包まれた道路、車内の2人が照らされる青い光。そして、光によるシルエットが映し出されるキスシーン(すげー当たり前だけどその途端に人が行き来しだすのもいい)と、アダム・サンドラーフィリップ・シーモア・ホフマンのとこに乗り込んだ時のシルエットもすばらしい。
あとは、やっぱりワンカットの緊張感がたまらない。冒頭の、電話から、道路まで出る時やセックス・ダイヤルにかけながら部屋を台所からベッドまで行き来する時。一番やばいと思ったのは、お姉さんに同僚を連れてこられるとこで(いや、何度も違う姉から電話が来るとこもよかったけど)、姉の質問&小言攻撃(プリンとスーツについて)、リナ(だっけ?)からの問い掛け、上の空で答えるアダム・サンドラー、かかってくるセックス・ダイヤルの女からの電話での会話、突然おこる荷物の派手な散乱、が流れるような重なって次々と起こっていくのが、長いシーンと絶妙なきりかわりが組み合わされていて見ていてテンションがあがった。あとは、車をぶつけてきた男たちを痛め付けるシーンの強さというか、アクションな感じもいい。
音も光も、ひとつながりの感じも、映画まるだしというか。でも、あの、同僚の椅子が唐突に壊れるのが一番映画っぽいのかもしれない。あれ何?最高だったけど。
電話は、かなり効果的に使われていて、リナの家を訪問し、下に降りてくるとちょうど管理人室の電話がなるとこはほとんどホラーだった(なんでかといえば、セックス・ダイヤルからまたかかってきたのかと思ったから…もしそうならCIAだよな)。けど、そこを発端にする、部屋を探し回って扉を開けてのキスシーンは、すごい。
しかし…一番触れなきゃいけないのは、姉たちだろう。見ていてまじで胸が苦しくなった…いやあそこらへんは、コメディーなとこで、そんな身につまされる必要はないのかもしれない…多分違うけど。あの、話題が伝播してくのとか前の事をいつまでも話題にしてからかうのとか、本人たちは愛情でやってるから(いやあれも分析すりゃあ憎しみかもしれないが)たちが悪い。リナと姉が会話してるのを不安そうに見つめるアダム・サンドラーの視線が悲しすぎる(しかしあそこでは、姉の弟へのまともなフォローが見え隠れするんだけど)。姉へ、電話ボックスでおもくそぶち切れるのがすっきり。にやにや笑いVS心からの訴え(しかしそれは向こうにしたら「なにまじになってんの…」的でしかない)。こういう環境で、アダム・サンドラーがああいうちぐはぐな性格・行動の人間になったんだろうか…とか思いたくなる。なんだか警戒心が強そうなわりに自分のことをべらべらと(セックス・ダイヤルに、義兄に)しゃべってしまう。正義感が強いわりにすぐおびえる(フィリップ・シーモア・ホフマン(電話でのぶちきれや最後の捨て台詞→凄まれて訂正とか…)との電話での会話では一言一言でテンションが変わる)(つーか『ありふれた奇跡』の翔大じゃん)。ただ後者については「一生に一度の恋」のおかげで強くなっている、というのが、なんか感動した。ラストもいいし。
テレビでやってた(多分)J・J・エイブラムスM:i:III』の、橋のシーン(『クローバーフィールド』見たい)。横移動や、ちゃんと着弾まで映す(いかにもCGなミサイル)。フィリップ・シーモア・ホフマンの話きかない感じ(で、あの飛行機内の拷問はあそこまでのは新しいんじゃないか)&車に「もってかれる」死に方もよかった。『LOST』は見ないかもだけども。イーサン・ハント(というかトム・クルーズ)も、ジェイソン・ボーンに負けず劣らず(特にⅡとⅢでは)がんばってんなぁ(頭に爆弾埋められたり振り子でビルのってすべり落ちたり)と思った。あと「ラビットフット」は案外考えてああいう扱いなんだろうなとも思う。