スティーブン・ソダーバーグチェ 28歳の革命
陰鬱な映画。ジャングルのゲリラ戦が描かれているんだけど、そこに、戦闘のカタルシスはない。銃撃戦が極端に少ないと思う。あっても、どこから弾が来るかもわからないし、ゲリラの撃った弾もどこにあたったかもはっきりしなくて、銃撃戦が、ともかくはっきりしない。ジャングルの中では、戦闘よりも、終ることのない繰り返しのような行軍や分隊の発生の風景、農民や市民出身などの新兵の入隊や脱走、が、ほんとに何度も何度も行われる。その中で、ゲバラの喘息の咳だけが、さらに画面を暗くするように鳴りつづける。
最後の、市街地での戦闘では、ようやくというか、戦争映画的になるんだけど、それも中途半端というか。例えば、民家の壁をぶち壊して敵が潜む教会に潜入するんだけど、そこで、普通なら、敵兵との緊迫した室内での戦闘が描かれると思うんだけど(壁を壊して入ったら、即敵と出会ってしまうとか)、それがない。ここに敵を置けば、とか、ここの戦闘をもっと詳細に映せば、という箇所がいくつかあるんだけど、それも、消化不良な感じで終る。
ゲリラ戦と、アメリカでのゲバラ、国連での演説、が入り混じって、なんというか、わけがわからない。こういう風にする意味が、ということなんだけど。いやでも、わかるんだけど、なんというか、映画なんだけどそうじゃないもの、に変貌してしまっている、ような。
見てる間中、疲労感というか、暗雲が立ち込める感じ、というのが付きまとい続ける。
一応、最初と最後で、ある規則性をもって終る(これは『39歳』も)。

チェ 39歳 別れの手紙
これも、ほんと、暗い映画。使われるフォントが28歳とは違っていた。前のが、ちょっと古めのニュース映像とかに使われるのだとしたら、こっちは、記録映画というか。
こっちの方が、見ているうちにどんどん、自分が何を見ているのか解らなくなってくる感じ。もはやゲバラとか関係なく、ひたすら行軍が続く。
渓谷の上から敵を狙って、撃ったらすぐ終った銃撃戦とか、無人の村での戦闘は、『ワイルドバンチ』なのか?
ゲリラの行軍といえば『実録・連合赤軍』を思い出す。あそこでは、勿論ある種陰惨な、救いようも無いものとしてリンチや処刑やあさま山荘が描かれていた。その合間の、訓練の様子も、なんというか、エピソード的にリアリティを持って描かれていた。
しかし、例えば『28歳』はどうだろうか。女性が現われるのに、そこにトラブルの種を見ることはできなくて、ゲバラとの恋愛だけである。終わりの見えない戦闘や逃亡の中で鬱屈の溜まった兵士達のトラブル、もあまりない(部隊からの脱走くらいだ)。処刑も、1回だけ、それも、さらっと描かれるだけだ。あの、殴られて顔が変形しながら泣き笑いする坂井真紀はいない。訓練も、あの銃を持たない銃の訓練などなくて、音楽が流れるダイジェストにすぎない。
でもそれは、勝ち戦だからといえばそうなのかもしれなく、『39歳』では、一貫してキューバでの戦いとは違い、敗色濃厚であり続けるというか、ひたすら不安の中にいるしかなくて、だから、女性スパイが登場すると、一瞬不穏な感じになりかけたり、兵士同士の、不安やコミュニケーションの齟齬によるいざこざも起こる。しかし、それらも、中途半端というか、あまり面白みを持って描かれず、ひたすら進むジャングルに塗りつぶされるという感じ。
出てる人間、つまりゲリラ兵士も、『28歳』では増えていくのでますますわからなくなっていく。誰が誰だか。『39歳』では逆にどんどん減っていくんだけど、それでも、最後の最後になるまで、キャラクターがどうもはっきりしないような気がする。そのなかで、ある部隊が、皆殺しにされるんだけど、その直前に、その部隊の一人一人を、しつこいくらいに映し出してから、みんなを死なすのが、意地悪いな、と思って、でも、ふとそれで気づいたのが、そういうような、一人きりのアップないしバストショットというのがほとんどない映画なんだな、という事だった。だから、どうも一人一人の印象がはっきりしない、のか?
『39歳』は、進むにつれ、どんどん画面が明るくなって色が薄くなって手持ちカメラ的にぶれて、なんというか、戦争の海外ドラマみたく、ある種安っぽくさえなっていく(でも、無人の村での戦闘シーンで、揺れ動くカメラに、ワンカットで、左右に動き散っていく兵士や馬がすべて(のように見える感じで)納まっているのはすごいと思った)。でも、夜の、二人の偵察隊が、こちらへ向かってくるボリビア軍を見つけるシーンだけ、青く、ピタッと落ち着いた、かたまった、きれいな画面になっていた。でも昼間になると、また、やけに明るくなる。しかしその明るさも、いやらしく乾いた、砂埃の立ちこめる、乾燥した、むなしい明るさ、という感じなんだけど。
ソダーバーグ(ないしベニチオ・デル・トロ)は、この映画で、なにがしたいのか?映画として面白い、んだけどむしろそれよりも疲労感や暗さが付きまとう、不快な映像が多い。エンターテイメント的な面白さは極端に少ない(ソダーバーグなのに?)。ゲバラの普段の様子、というのが描かれているっちゃあいるし(アメリカでの食事風景)、すこしユーモアの面もあるんだけど(アメリカでの付き人、疲れてる兵士に読み書きをさせるゲバラ)、それよりもむしろ、ほんと、いやになるくらいの憂鬱なゲリラ行軍がひたすらある。そこには、あったら、観客にも少しは救いになっただろう、英雄的な戦闘も、戦争映画のカタルシスや残酷さやグロテスクさ(頭吹き飛ぶとか)も、緊迫した極限状態に置かれた人間の狂っていくさまも、なんだかひどく欠けている。

WALL・E』は、エンドロールもよかったなぁ。幸せな未来が思い浮かべられるようで。