深沢七郎『言わなければよかったのに日記』と別役実『けものづくし』、『現代の文学10 藤枝静男 秋元松代』を買った。
殊能将之ハサミ男』を読み終えた。『美濃牛』より好きだ。映画見たい。
《暗闇。怪物。わたしの心のなかに暗闇や怪物は存在しているだろうか。わたしは目をつぶり、探ってみた。/何もない/わたしの内側は、からっぽだ。/そして、わたしの外側も、からっぽだった。/ふたつの異なるからっぽがある。その境目がわたしだった。》p158
《「しかし、犯罪を犯す『普通の動機』なんて、本当にあるのだろうか。(…)」》p245境界線。善人と悪人。加害者と被害者。ハサミ男と偽ハサミ男。「わたし」と「医者」。それらにこだわりながらもお互いを浸食しあう感じで、読者を混乱させる。多分、「わたし」は、「樽宮由紀子」と似ているのだろう。ばかげた心理学的、精神的要因、トラウマみたいなものをあからさまに描くのを執拗に回避しながら、最後にさりげなく、「わたし」の抱える問題を感じとらせるのがすごい。また加害者と被害者は両者とも、憶測や推理にまみれさせられながら架空の姿を作り上げられる、という点においても(そしてそれは本人から遠ざかっていく…ように少なくとも本人には感じられる)、「わたし」≒「樽宮由紀子」なんじゃないか?
そして、読者が勝手に引いた(引かされた)ある境界線を、驚きとともに覆す。

《しかし、わたしはいままで、警察に捕まらないよう細心の注意を払ってきた。その方針は最後まで貫こう。/どんなに勝ち目のないゲームでも、始めた以上は全力をつくすべきだ。》p325
《「人を殺人から遠ざけるのは、ほんのちょっとしたことなんだよ。死を目のあたりにしたときの不快感、血の臭いをかいだときのいやな感じ、死体に触れたときの不気味さ、そういったごく些細な事柄だ。(…)」》p397