ナ・ホンジン『チェイサー』を新宿で見た。
坂の多い、比較的大きな家が立ち並んでいるが、普通の民家や、誰が使ってるかわからない古びた建物、教会、昔からある商店などが混在している住宅街。いたるところに路上駐車されている車があるせいか、ほぼ一方通行のようになってる道が多い。たまに歩哨所?があったりする。
こういうところを、日本で喩えるとどういうところになるか思いつかないが、それはともかくとして、あの場所を舞台にしたということが、まず最高だと思った。
そう考えると、たとえば市長が視察に訪れた市場、ヨンミンが元務めていたらしい石切り場、というか石像とか多分墓石の加工場みたいなとこ(ここは逃亡劇の舞台になってるということもあるんだけど)、ラブホテル、なんだかどこにあるのか、そもそも民家なのかはっきりしないミジンの家(なんだあのガラスのドアは)、など、場所がどれもすばらしい。
もちろん、ヨンミンが隠れ家に使っていた小部屋もいいんだけど。あそこの壁紙のシーンで、やっと、わけのわからなさ、が出てきていた。
最初の、ヨンミンとジュンホの追いかけっこが一番面白かった、と言いたくなる。横にすっころぶのとか。
残虐さは意外とない…血もそんなでもないし。白黒と無音…。格闘も、最後のが、ようやくだまし討ちとかがあってスカッとした。でも、ヨンミンのハンマーの使い方は良い。喋りながらすっと、ハンマーを出す感じが。
雨が降ったりやんだりし続ける。何か捜索しようとするたびに、邪魔するように雨が降る、けど、雨が降ってるときにしか核心には迫っていかない。
雨の使い方。子供が泣くのと、ジュンホが怒鳴るのが、車の外から、雨越しにしか見ることができない。
ヨンミンは殴られても殴られてもある種平然としてるけど、精神科医に追求された時だけ激昂する。そのときの、起こる直前の、何をやらかすかわからない、っていう不穏さがうまいなーと思った。

わけのわからなさ、について考えていた。ノイズ、逸脱、脱線、本筋の物語に回収されない何か、なんだったのか何を意味していたのか観終わった後でもわからないもの。これらはすべて違う、けど、観客を何かもやもやさせるものだ。