スティーヴン・スピルバーグリンカーン』見た。

対象が揺れ動きながらのクローズアップ、多く、なんかピントが合ってないように見えたのだけれど、どうなんだろうか。もちのろん、ヤヌス・カミンスキーなので、なんかあるんじゃないかとは思うんだけど、それがなんなのか皆目見当つかず。光と影の処理も、いつもの感じかと思いきやちょっと違うような。『戦火の馬』の、らしさ発揮しまくり、に比べると、だけど。室内はまだしも、屋外が、特に戦場の画があまりに青いし、リンカーンが訪れるところ、なんか銀っぽくなってた。
あと、途中、え?と思う繋ぎがあって、まず1か所は、リンカーンが、自ら直接、民主党議員に働きかけるシーンで、イェーマン議員のアップから、次の議員に会いに行く、の箇所で、ここを、2人の位置を同じ側にせずに、左右別に位置させてカットを繋げていたところ、で、もう1つは、トミー・リー・ジョーンズ=サディアス・スティーヴンスが、採決後帰宅するシーン、ここで、通りから家に近づき、玄関の前、扉を開けるのを家の内側から、と細かく割っているのだけれど、ここがすべてカットアウト・インではなくクロスフェードにしていたところだ。
いや、なんかちょっと変というか、しかし、別に何が、と訊かれると口ごもってしまうような妙さ。マイケル・カーンなので、なんかあるんじゃないかとは思うんだけど、それがなんなのか皆目見当つかず。思えば、冒頭の、南軍兵士と大統領の会話のシーンも、黒人の兵士とリンカーンの切り替えしが、何だか位置が逆なんじゃないか、と感じる不自然さがあった。
その、若き黒人兵士の口によって、ゲディスバーグの演説が「メイン」のフレーズが語られ、そして終盤、スティーヴンス議員の、恋人によって(彼女は黒人で、おそらく名目上は家政婦としている。彼女とのキスシーンの心打たれる生々しさ…そり上げられたトミー・リー・ジョーンズの頭部…)、憲法修正第13条、奴隷解放法案、が朗読される、という震えるほどの「代行」。しかしこれは、本来その行為、その言葉の発話を許されている人間が発している、ということでもある。彼ら彼女らは「当事者」である、ということ。
にしてもなんという死のイメージの鮮烈さだろう。この映画は、何よりも戦争から始まり(黒い画面から戦場の阿鼻叫喚と轟音が聞こえる、というのは『ゼロ・ダーク・サーティ』冒頭の録音された音声から始まることに通ずるものある)、死体の転がる平野も映される。
何よりも、リンカーン自身の横たわるという行為。開かれたドアから差し込む光によって暗い部屋の中明らかになる、暖炉の前で寝てしまった息子のタッド、という強烈な画は、亡くなった次男の姿を想起させるだろうし、その隣に唐突に横たわる父親もまたしかり、である(直後の2人の動きを見れば、この唐突さは、この父子のいつもの出来事なのだろうとリアリティを持って思わされるのだけれど。いつもこうして息子をベッドに運んであげているのだろう、という)。そうしてラスト、視界に飛び込んでくる、枕の血痕の赤さを伴って偉大な大統領の遺体が登場する。撃たれた姿、ではなく。
この父と年の離れた子、の不思議な不吉さは、あれだけ何度も窓際で、カーテンをゆらしていたメアリーとではなく、この2人が、薄いレースのカーテンに包まり陽光に透かされるシーンでも感じさせられる。
しかし、戦争映画、それもスピルバーグの、となれば、映画における素晴らしい「動き」「運動」がまたしても描かれるのだろう、という期待を裏切り、今作ではほとんどそうした運動がない。動かない。これを“Corpse”、“Casualties”のようだ、とするのはいささか性急で強引過ぎるか。反して在るのは、夫が妻のコルセットを外す、帽子を脱ぐ(ハリウッド映画の伝統的行為だ)、シルクハットの中からメモを取り出す、手袋を渡されるがテーブルに置き去ってしまう、という、繊細というか、細やかなしぐさだ。
そして、ある登場人物によってもう結構だと拒否されもする、リンカーンが「逸話」を語るという行為も多く。その時人々は動きを止め、これに聴き入る。複数の語られる挿話、というのは、スピルバーグになかったように思う…が、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』にあったかもとも思う…。なんとなく、イーストウッドのようだと思ったが…根拠ないわ…。
一方、はっきりと言葉を口にし主張する人物に対して、自らの考えや思想を口ごもる人間、を描出している、そういう人々にこだわっている。
しかし、仕草と言葉、に埋め尽くされた中を(馬や馬車ですらほとんど寄り気味で、まるで近距離をしか移動していないかのように見えてしまう、スピルバーグなのに)、切り裂くように動くのは、3人のロビイストだ。彼らの全力疾走にはカタルシスあった。…。そして、人間の「残骸」を運ぶリヤカーだろう。
これは、『ミュンヘン』や『シンドラーのリスト』ばりの"tough issues"である、という証を、リンカーンの口からいささか唐突に「エルサレム」の単語を発させることで記している。
まぁ、すげぇ映画。確実に上位。ある意味では、スピルバーグの近作の中で最も「抑制」された(「禁欲」といってもいいかも)作品だが、しかしそこに意味がある、というような。
ジャッキー・アール・ヘイリーがいい役で出てたのうれしかった。あと、マシュー・マクファディン出てたと思ったら違う人だった。リー・ペイスって人だった。
おまけ。

まじ先生、ほんと良かったです〜みたいなとこ。