三浦哲哉『映画とは何か』読んでる。
《(…)他の芸術領域との翻訳関係にこそ「不純な芸術」としての映画の豊かな可能性があるーーとくに50年代以降のバザンにおけるそのような着想が具体的に示されていた。アンドリューは言う。「それ自体本質的に無である映画は、そもそもすべて翻案に存じており、映画がそう成るように導かれたもの、来るべき未来においてそう成るかもしれないものとして在るのだ。」》(p71-72)
《映画はたしかに主観でもある。一方でそれは作り手の想像力の産物でもあり、また観客の視点においてはそれはまるで個人的な夢のように体験され、人生の一コマとして記憶されるということもできる。しかし、それは同時に客観的な事物の側にある。何より個々のイメージはもともと「現実世界」の事物の中に嵌め込まれていたものだ。》(p81)映画はそれ自体と見る人間の間にあり両義的で共有されるものというはシェフェールだ。
バザンの俳優論、ジャン・ギャバンについて。《ギャバンは、常に同じ物語を、つまり彼自身の物語を演じているのである。》(p85)俳優たちは、彼ら自身の現実と映画の想像、《「記録」と「幻影」という矛盾》(p84)を両立させる神話的存在となっている。映画スターのイメージは、大衆の心理を表す神話である(p95)。想像的なものを現実化する媒体としてのスター(p96)。
《なぜなら、スクリーン上で起こった「強奪」の帰結として、私たちの隷属心と結びついた神話的存在としてのヒトラーがその力を失ったからだ。バザンは、現実のヒトラーが死んでも、神話的存在としてのヒトラーは生きながらえることがありえ、また、それと結びついた私たちの「隷属心」も存続することがありうることに注意を促している。(…)だとすれば、この闘いに賭けられているのは、大衆の魂というべきものである。ここでバザンにおける「心理」の意味をしかるべく位置づけることができるだろう。「心理」とは「神話」が上演される場であり、神話の創造と変容によってその配置も影響を受ける。映画の神話論は、現代の大衆の魂の観察を意味する。また、それより重要なのは、おそらくバザンが「映画の神話学」に、映画が大衆をーー世界を変えうるという希望を託した点である。》(p88-89)
《映画とは、「現実世界」が光線と接する表面において「脱皮」した後に残される皮膚、それを自動保存する装置である。》(p94)現実世界の皮膚、には、その光線と接した面の全て、あらゆるものがはりついている、それがそのままフィルムにやきつき保存されるのが、人間の外部の、客観的な記憶・過去(p92)としての映画。やきついていなくても、その皮膚は存在している、保存されていないだけで(p94)。その存在する皮膚、記憶、過去、イメージは、「現実世界の側に帰属している」(p94)。
《つまり、「魂」だと思われていた人間の内面が、いわば袋を裏返すようにして世界の現実に成ってしまう。》(p95)
《いまだ実現していない未来と、すでに起きた過去とが共存する、そのような領域が映画と共に現実化する。》(p97)そういう映画こそが、映画的なのだ。
《映画を作ることは、移ろいゆく現実世界の人生に、映画というもう一つの時間を導入することを意味する。》(p100)
ブレッソンパスカルについて。《「表象」というとき、一つの記号が一つの意味を固定的に指し示しうるという想定がある。時間の中での意味内容の変化がここでは考慮に入れられていない。「表徴」は、はるかにダイナミックな記号の様態に関わる。それは預言の成就としての「受肉」を視野に収めた概念である。ここではオリジナルが時間的に後から来て、予型にすぎなかった過去の出来事の意味を完成させる。「表徴」においては、後からくるイメージこそがそれに先行するオリジナルの価値を決定するという転倒があるのだ。/したがって、見えるものが直接的に、不変の指示対象を占有しうるという発想が禁じられるのは当然のことなのだ。パスカルが擁護しようとしたカトリシズムの動的なヴィジョンがそれではわからなくなってしまう。そうではなく、イメージは何かを隠しており、見えないものがそこに受肉するかもしれぬ預言の体制の中にあると考えるべきであるというのがパスカルのイメージ論の要諦なのである。/そこで世界はむしろ巨大な暗号文として現れるだろう。(…)あらゆる目に見えるイメージは、確定的なオリジナルを所有することのない巨大な宙吊り状態に置かれてある。ただし、根拠を失った表象(「一つの田園…」)は、代わりに可変性を受け取る。イメージはそれぞれの時間の中での関係に依存する「変数」となる。そこには外部から何ものかが到来するという出来事ーー「受肉」の可能性が残される。》(p125-126)


アンドレ・バザン『映画とは何か』上巻も買った。けどまだ読んでない。ブレッソンの『シネマトグラフ覚書』は持ってるので読み進めたい。

映画とは何か(上) (岩波文庫)

映画とは何か(上) (岩波文庫)