ブルーレイで見た映画。


ダンカン・ジョーンズ『ミッション: 8ミニッツ』

約94分の映画で、60分で「事件解決」し(しかもそれは軍人の素早い任務遂行によって達成されるというのがしびれる。有り得ない状況を二回目から「乗りこなす」)、後半の30分は狂気の意志による展開、不可能性が超越される。それだけでめちゃくちゃ感動する。二度の死、というモチーフも異常。
ジェイクは病みと追い詰められた狂気の描写を完全にものにしている。口を軽くゆがませて逡巡するヴェラ・ファーミガ様の艶やかさ。ミシェル・モナハンの晴れやかさな笑顔、丁々発止なやりとりは愛さずにいられないジェフリー・ライトのマッドな科学者には杖をつかせるという演出も完全にわかってる。手前にしゃがんで手遊びするジェイク、奥のモニターから呼びかけるファーミガ様、という画が、子供を諭す母親みたいになっててすてきだ。
鏡や窓ガラスを使った合成や、大尉の真の姿、走行する列車からの落下のワンカット、合成の質感が「高すぎなくて」ぐっときた。
冒頭の空撮と列車のカットバックとあの音楽、これこれ、という感じ(からあの展開ってのもさらに良い)。
撮影の感じ、画の色の濃さ、トニーなんじゃないかな…って気がしてる。のは思い込みか。


ニールス・アルデン・オプレヴ『デッドマン・ダウン』

ヴィクターの繊細さ優しさをその所作で表現してる。掃除機をかける動作、靴を脱ぐ時のしゃがみ方、女性を部屋に誘う時何も語らない、相手が見られたくないアルバムをのける時の手の動き。喋らなさ、手の動きや身のこなしで語る。
カメラ位置や構図も素晴らしい。男女のやりとりが主になされるベランダの窓以外の窓からも向こうの動きを見させる、見つめ合う(平行)だけでなくビルの構造を利用し見下ろさせる(上下)(一方的な視線)、倉庫の天井と部屋内部のワンカット(イングロ1部か)。
無論動きやアクションも充実してる。ビルからの逃走劇も素晴らしすぎて…いちいち手が込んでるんだよな(綱で吊るす)…しかも厨房に逃げ込む!
ともかく描写が丁寧。人物の性質を利用したりもしてる。車で現場から逃げていくときの「用心」っぷり。水を入れたグラスをしっかり写す。ボスとヴィクターを横並びに座らせるのとかそういうところがいちいち冴えている。
セリフもしみじみいいなー。演出サイドが人物へ向ける優しさがにじみ出てる。彼女はタッパーが好きだから。紹介しないのか、悪友だもんな、ってかわいすぎる。
特典映像見ると、監督曰く今作はclassic american filmのすべて、謎、復讐、ラブストーリー、があると。ノオミが監督を評し、何が表現したいわかってる、指示がこまかい、と。その狙いの明確さがびんびんつたわってくる。銃は、二度目は撃たない、とか。
そして烈火のうちに怒りを込めたノオミのすばらしさ。全然関係ないけど、ノオミ・ラパスウィキペディアみたら「2001年にスウェーデン人俳優のオーラ・ラパスと結婚。姓にオーラのノレルではなく、フランス語とイタリア語で"猛禽RAPTOR"を意味するラパスを選択し、(…)」ってエピソードやばかった。


アンドリュー・ニコルTIME/タイム

最初のSF設定の説明の簡潔さが巧み。それが後半からラブストーリー、そして犯罪物(車を奪うボニー&クライド)になっていく。女性に銃は撃たせるのはわかってる。ストーリーがドライブしジャンルが多層化する。
ジャスティンの肉体の運動。ゲームをしながら瞬時に敵を射殺する早業はダンスのよう(またダンスに「慣れてない」役だったけど)。彼の疾走が、画面の中で、走ることを時間に置き換えていく(「走る」行為を「見る」ことでシルヴィアが覚醒する)。
夜の沿岸のツーシーターのヘッドライト。引きの構図が強調されている(河岸の壊れた車)。撮影はロジャー・ディーキンス
キリアン・マーフィー、良さしかないし黒のロングコート似合いすぎるから最高。アマンダ、内側から弾けるような魅力ある。
繰り返される、「steelではなくstolen」。


ジョー・カーナハンTHE GREY 凍える太陽

冒頭かた音も動きも抑制された描写、B級っぽさもあるけど(クオリティは「あえて」こうしてるのでは?)一望できない狼の姿。
リーアム先生、地獄の雪原熱血指導(なぜこの人は狼のことも何もかも「わかって」しまうのか。なぜなら先生だから)。
登場人物たちが比較的物分り良い人々だったり、食物の問題がさほどクローズアップされないことから、この映画の主軸はそこにはないんだなと伝わる。死者を弔うこと、人間の尊厳を失わないこと、誰であれ死は冒涜されてはいけない、自分の中の恐れを認め向き合うこと。という思想の帰結があのラストなんだろうな。ドラマ的にたどり着いたものではない。


ところで、図らずも『デッドマン・ダウン』も『TIME/タイム』もトラックで建物に突っ込む。デッドマン〜はそこからの室内での戦闘シーンがまたすばらしいのだけど(上昇と破壊、炎・爆発とスプリンクラーの水)。さらに良作とも今考えると復讐もの(後者は変則的だけど)という意味で『問題のあるレストラン』と強引にひきつけて考えてみようかな。