西谷弘『任侠ヘルパー』見た。

うわーーーー。大傑作。
動き、と、視線、が、人物たちを、空間を、事件を、あるカットから次へ繋げていく。カメラの視線が、異なる空間を射貫き(福祉施設の窓、組長の車の窓)、ひと繋がりにする。そんな場面が、息つく暇もなく連続し、そしてそれら自体が、言葉に頼らず、物語る。極端に説明を排し、回想もないし、ナレーションも用いられない。
唯一といっていい、映画内の現在時制から離れたシーンが、刺青から想起される甘美とまでいって良いくらいの、ある家族の思い出なのがまた痺れる。
唯一、といえば、黒へのフェードアウトが1つだけあるのだけれど、その絶妙な使い方!
余計な演出をせず、画を一枚、または、ある動きをひとつ、示して、観ている我々のなかに人物を造形させる。引きで、二人の人間が、微妙な距離を保って存在している(撮影も最高…山本英夫だし)。過剰な演技もない。
だから、思わせぶりに、宇崎竜童と目配せをする側近の男が何者なのかわからないし、阿部亮平は、自分の女が取られたりひどい目にあわされたりしたからといって、彦一に無駄なちょっかいかけたりなどしない。だがそこが良い。
とはいえ、エモーショナルな演技となると、香川照之の独壇場になる、のも良いのだけど。というか、役者はどの人もすばらしかった。風間俊介のぼんくらっぷりが完全に板につきまくっていたし、夏帆はまじで生々しすぎて今後ああいう役ばっかり来るんじゃないかと思うくらい良かったし、何より、草なぎ剛の圧倒的な動きが…。冒頭コンビニで、寝転がった強盗の首に思いっきり足を食らわせる。暗闇の中を、ヘッドライトや街灯に照らされながら爆走。旅館前の駐車場で、照明の中での暴力。文句なし。言い尽くせないくらい皆よかった(りりぃの悪態とか、マチャアキのかすれ声とか、安田成美の表情の変わりよう)。
あとは、やくざのディテールの細かさ。選挙演説を車から見たり、法要に勝手に行列つくってきたり、彦一を捜索する極鵬会のスクーターの改造具合、軽トラを強制的に止めて車を生かせる動き、…ああいうのがまじやっかいな人たち、ってことだなぁとしみじみ。
海岸沿いの町の風景のうら寂しさ、すたれた風景、ぼろぼろの建物、が的確にとらえられている。「うみねこの家」の感じ、手が加えられ再生していく過程の高揚していく感じ。
音楽もぐっときた。エンドのラブサイケデリコ(と、ロールの風景)もねー…。
亀山さんの、映画好きエピソードを聞いたことがあるので、こういう作品をぶっこんで来るところが信用できるなぁと思ってしまう。今後も海猿や踊るで稼ぎつつ、こういうところに金をつかってほしい。
ほんと、もう一回見たい。