ヴァージニア・ウルフ『幕間』

ウルフは読者を「ぶっ飛ばす」。いや「すっとばす」と言ってもいいかもしれない。そう感じる時いつも頭には東方仗助の姿が思い浮かぶ。

読者の中にウルフは、風景を、思想を、イメージを小説によって蓄積させる。そして、その積み重なりが爆発する境目がやってくる。整理されない言葉、描写が入り乱れる。渦の中に巻き込まれる。その時に前述のぶっ飛ばされるような感覚がある。ミレニアム・ファルコンがハイパースペースに突入する時のようだ。そうしてある場所にたどり着く。そこでは明らかに人間の、生命の美しさが(傷つきながら、傷つけられながらも)肯定されている。

ウルフはだから、読者を信頼している。ある統一した精神を持ち、記憶を維持し、文章を追い続けることができる読者の存在を、自分の小説を読むのはそのような存在であるということを信じている。読者もまたウルフの自分に対する信頼を感じる。ウルフの小説は作者と読者の紐帯として作られているようだ。

美しさや信頼、の一方で、実際の事件や詩歌・物語を用いて、ぞっとするようなある種の残酷さを潜ませている。我々は、統一性を信じる一方で、そうした攻撃性によって千々に乱れもする。その行き先には暗澹たる戦争が待ち構えている。それもなお……ということではあるわけだけど。