ウラジミール・ナボコフ『アーダ』

読み終えた、という言葉を打ち込んで、しかし、本当にそう言えるのか?と疑問に思う。ナボコフの小説はおしなべて全てそうだと言えるけど。

過去を執拗に想起し、執念深く描写することで、甘美で無防備でインモラルで淫らな記憶に淫する。 そして、複数の言語が入り乱れ(乱交!)、言葉が入れ替わり、意味が移り変わり、名前が付け替わり、文字が並び変わり、物語が、論理が枝分かれする。

そこでは、ありえない、例えば「過去」と「現在」のような、結びつきや、あってはならない、例えば「近親相姦」のような、組み合わせが成立してしまう。

身勝手で、無責任で、自己中心的な人物による、身勝手で、無責任で、自己中心的な、恋愛小説であり、家族小説……。