「語りの複数性」(東京都渋谷公園通りギャラリー)


展覧会のタイトルを挙げてはいるものの、他の作品も良かったんだけど(山本高之『悪夢の続き』とか)、ここでは、百瀬文『聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと』について書く。スリリングすぎる作品だった。

耳の聞こえない男性との会話である、ということから、音と言葉についての作品だとまず思って見ていくんだけど、"トランジスタ・テレビ"のアンテナを動かしてノイズを消してサイレントの映画を見る、という挿話が登場し、それに引き込まれ、これは動きと映像についての作品でもあるのだとわかってさらにテンションがあがった。
そこから、まるで長いディゾルブで、ある映像から次の映像へ切り替わるように、じわじわとある変化が起こり始める。
もし現実に、作品の外でその現象が起こるならば、ある種の悪意が存在すると解釈されてもおかしくない類のもので、おそらくこの作品においては、あらかじめ了解をとった上で行われている行為であるはずだけどしかし、それは人間同士のコミュニケーションに潜在的に含まれているある種の不可能性、機能不全を指摘するかのようで端的に言って恐ろしく思えた。
しかし、木下知威さんという人の、知性をガンガン感じる語りによって、その恐ろしさが中和されていく。ただそれもまた別種の恐ろしさなわけだけど。恐ろしさというより畏怖か(…同じか)。
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会話する2人の後ろの本棚を終始気にしてた。百瀬さんのアップの画の時に、三浦哲哉『サスペンス映画史』、『タルコフスキーAtワーク』、アラン・ブルームアメリカン・マインドの終焉』、岩波文庫ホッブスリヴァイアサン』が確認できた。