サム・ライミ『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』


あまりにもサム・ライミの映画すぎる。寄っていくカメラのスピード感ある動かし方、斜めにかしいだ構図、ディゾルブ、顔の並べ方、フェードイン・アウトの連発、むちゃくちゃ最高なアイリスイン・アウト、音の絞り方と爆音の鳴らし方、ダニー・エルフマンのギター、人体破壊、傷だらけの顔、グロテスクな暴力、スピーディに物事を進める早いテンポの編集、典型的「急展開」、女性の啖呵きり、死者の蘇生、悪霊、呪い、儀式すぎる儀式、などなど、見てる途中、あまりの楽しさに頭がおかしくなりそうだった。

しかし、この映画で扱われているモチーフのいくつかは、多分「原作」にも存在しているんだろう。ただ、それを踏まえても、というか、だからこそ、と言えるのかもしれないが、とはいえ、映画作家の(超)記名性をも受け入れてしまうアメリカン・コミックスという分野の懐の深さには感じ入ってしまう。

もちろん、ふと冷静になって、ただこうした要素を列挙して、それで喜んでどうする、という気がしないでもない。そして、ワンダが相当酷い状況にある、というのもわかる。
だけど、今作が、チープだけどリッチな、アメリカのお化け屋敷のような映画だと思えば、何が起こってても許容してしまう、というのもまた、現代においては問題なんだろうか。お化け屋敷と言えども、correctであるべきなのだろうか。

そして、ただ要素を、事件を列挙するしかできないのならば、こうして一つの文章にする意味があるのか、と言えば、(私が)映画に太刀打ちするためにはこの方法しかない、と言い訳めいたことを述べるしかないのだった。降伏宣言としての文章…。